売り出し中の中古住宅の隣人が騒音を出す人で…
売りたいマンションの上階の子供たちが元気すぎてうるさい…
前面道路を大型トラックが往来するので騒音がすごい…
こういったケースは実によくあります。
そんな物件を売却する際、売主は「騒音問題あり」と買主に必ず告知しなければいけないのでしょうか?また、どのレベルまで告げるべきなのでしょうか?
過去の裁判例も参考にしながら、不動産売却の騒音の告知義務について考えてみたいと思います。
家の売却で騒音の告知はどこまで必要?
家の売却に伴う騒音の告知義務は、その範囲がはっきりと定まっているわけではありません。音の感じ方には個人差があるからです。
とはいえ、後々のトラブルを避けるためには、以下の点を心がけるといいと思います。
- 住んでいる間に継続的に気になった音については告知する
- 買主(または検討者)が契約する・しないを判断する上で影響がありそうだと予想できる音については告知する
一時的に子供が騒いだとか、一時的にテレビの音量が大きかった程度でしたら、告知する必要はないと思います。しかし、特異性のある騒音が継続するようでしたら告知した方がいいです。
告知の方法については、売主が自筆する「物件状況告知書」という書面を契約書に添付するのが通例です。
告知書の中に「騒音・振動・臭気等」という欄があるので、買主に伝えるべき事実をできるだけ詳しく記入するようにします。告知書がどんなものかは、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:物件確認書(告知書)と付帯設備表とは?売主が記入する時の注意点!
詳しい記述内容は、仲介業者に相談して決めましょう。
そもそも「騒音」の基準とは?
参考までに、環境庁が発表している「騒音の基準値」のデータを紹介します。
それによると、住宅地の日常生活で望ましい音の大きさは昼間55デシベル以下・夜間45デシベル以下となっています。これを超えると騒音とみなされます。
例えば、家庭内で発生する生活音のレベルを挙げてみますと…
- エアコン=41~59 デシベル
- 洗濯機=64~72デシベル
- 掃除機=60~76デシベル
- テレビ=57~72デシベル
- 子供のかけ足=50~66デシベル
- 話し声(日常)=50~61デシベル
人によって、あるいは時間帯や音が続く状況によって感じ方は違うと思いますが、だいたい60デシベルを超えると、隣に住んでいても「うるさい」と感じるのではないでしょうか?
関連記事:自然死の告知義務(売買)はある?事故物件との違い&公示サイトについて
騒音の告知義務の参考になる判例
騒音問題に関連した裁判例を2つ紹介(要点のみ)します。売主の告知義務について考える参考になると思います。
マンション上階から聞こえる生活音に耐えられない!(神戸地裁・平成14年5月31日判決)
- 分譲マンションの1室を7,000万円で購入した男性が、上階の給排水音・放尿音などに耐えられないとして、売主業者に契約解除と代金返還を求めた
- 販売パンフレットには「通常マンションのワンランク上のハイグレード」「快適さを極限まで追求」といった旨の記載があった
- すぐに売主業者は遮音工事などの対応をしたものの、男性は「設計・施工の時点で騒音対策がされていない欠陥住宅だ」と訴えた
- 裁判所は、パンフレット記載の言葉はセールストークでよく見かけるもので、防音性・遮音性を保証したものではないと判断
- また、居室内で測定された音の大きさは最大32デシベルだったため、欠陥住宅とまでは言えず、男性の訴えは退けられた
隣人が子供嫌いという説明は無かった!(大阪高裁・平成16年12月2日判決)
- 一戸建を2,280万円で購入した買主だったが、隣地の住人から「子供がうるさい」「追い出してやる」などと言われ、逆にステレオの音量を大きくしたり、建物にホースで水をかけられたりした
- その隣人は、売主が住んでいる当時から極端な子供嫌いで「子供を黙らせろ」と苦情を言っては、売主の洗濯物に水をかけたり、泥を投げたりしていたことが発覚。売主が自治会長や警察にも相談した経過があった
- 契約締結時、仲介業者が用意した「物件状況告知書」には「隣人より騒音による苦情があった」という記載はあった。しかし、買主が「本当に近隣に問題はありませんか?」と売主に質問したところ、売主は「問題ありません」と返答していた
- 裁判所は、隣人との出来事について売主は買主に説明する義務があり、物件状況告知書にある記載だけでは不十分と判断。売主は買主に損害賠償すべきだと命じた
- 仲介業者も説明の必要性を知りながらしていなかったため、説明義務違反として売主と連帯して損害賠償責任を負うことになった
1つ目の判例では、買主の訴え自体は退けられているものの、売主の「ハイグレード」「快適さを極限まで追求」といった“完璧な物件”を想起させる言葉は誤解を招くことがわかりました。
また、2つ目の判例からは、“言いづらい事実”こそ言わないと売却後のトラブルに発展することが学べますね。
関連記事:土地建物の売却を不動産屋に依頼する際に必要なものは?何を話せばいい?
まとめ
家売却における騒音の告知義務について、要点をまとめます。
- 騒音の感じ方は個々に異なるが、買主が契約する・しないを判断する材料に当てはまりそうな“特異性”のある事実は詳しく告知すべき
- 分譲マンションのような上下隣が接している物件は騒音トラブルが多いので、特に注意が必要
- 仲介業者を介在させているからといって、売主の説明責任が免除されるわけではない
- 物件にマイナス面がないような宣伝文句・アピールは避けた方がいい
- 過去に隣人との騒音トラブルがありながら「問題ありません」と虚偽の説明をしてはならない